
DMVの佐々木と兵田が2025年11月8日に立命館大学大阪いばらきキャンパスで開催された「コミック工学シンポジウム2025」に参加してきました。
コミック工学は漫画を工学的に利用するための研究分野です。漫画は絵と文字が複雑に関係しあうメディアであり、画像処理・データベース・人工知能・インタフェース・認知科学といった様々な領域にまたがって研究がなされています。コミック工学研究会は、アニメなどの漫画に関連するメディアを含めた、コミック工学に関連のある認知科学や社会科学などの学際領域の研究会です。研究者だけではなく、実際にコミックを制作するアーティストや企業の実務者などの幅広い参加者に開かれています。
今回のシンポジウムでは、ゲームをはじめとするメディア芸術作品のデジタルアーカイブに関する基調講演が行われたほか、コミックに関する多角的な視点からのライトニングトークや議論が交わされました。
DMVからは漫画に関する取り組みとして、マルチモーダルLLMを用いた漫画理解データ基盤「MangaLens」と漫画広告動画作成ソフトウェア「OZManga」を紹介しました。MangaLensは漫画のページ画像からストーリー展開、登場人物の特性、作品の世界観といった情報を大規模言語モデル(LLM)で抽出するシステムです。事前に抽出した漫画の内容をコンテキストとすることでコンテンツの中身に基づいた広告生成や、より精度の高い漫画推薦システムの構築が期待されます。OZMangaは漫画の動画広告作成ワークフローに着目し、簡単に広告動画を作成できるツールを目指しています。漫画のコマ割りが持つ再帰的な構造を利用することで、直感的なコマ分割UIを実現しています。詳しい発表内容は以下のスライドをご覧ください。
今回のシンポジウムを通じて、昨今のLLMや基盤モデルの進化がコミック工学にもやはり大きな影響を与えていることを肌で感じました。LLMや基盤モデルは画像やテキストの認識や生成に高い能力を発揮しますが、漫画への適用にはまだ課題が多く残っているようにも感じます。特に漫画は「データ」として扱うには非常に扱いづらいメディアです。漫画は膨大な数の画像データで構成され、絵と文字が複雑に配置されており、そして何より物語が長く、解釈に多義性(ambiguity)が含まれます。
漫画コンテンツを扱ったシステムを考える上では、「コンテンツからどのような特徴を抽出するよう設計すべきか」という点が中心的な課題であると改めて認識しました。また、基調講演のテーマでもあったデジタルアーカイブの観点からは、単にデジタル化して保存するだけでなく、「利用できる形式」にすることの重要性が強調されているのが印象的でした。漫画をコンテンツベースで検索・解析できるデータ基盤が整えば、学術利用の可能性も大きく広がります。
また、漫画は作家だけでなく、出版社や多くの権利者が関わる複合的なメディアでもあります。そのため、技術的な研究を進める上でも、産学が連携し、権利関係や制作現場の実情を相互に理解し合うことが極めて重要であると感じました。次の開催も楽しみです。